桜が美しい季節です。
この季節、桜の花の下では、花見で人々が賑わう姿が見られます。
桜というと開花を予想したり、宴会を企画したり、楽しいイメージがありますね。
しかし、桜はもともと哀れな感情を連想させる花であったようで、そのことは昔の文学で見てとれます。
鎌倉時代の西行法師は、桜にまつわる短歌を多く残していることで有名ですが、西行の作品を集めた書物『山家集(さんかしゅう)』にはこのような歌があります。
咲きそむる花を一枝まづ折りて 昔の人のためと思わん
(咲き始めた桜を一枝まず折って、亡き人に手向けたく思う ※意訳)
仏には桜の花をたてまつれ 我が後の世を人とぶらはば
(私が仏になったならば私のために桜の一枝を手向けてほしい ※意訳)
西行にとって桜は見て愛でるだけでなく、死と結ばれるものでありました。
西行の歌を経て、桜は日本人の心と結びついたのかもしれません。
太平洋戦争のとき、学徒動員で戦場に赴くとき、多くの若者が、西行のこの『山家集』を携えたと聞いたことがあります。西行の厭世的な歌のなかに、当時の若者の心を打つものがあったのでしょう。
そして、桜ほど、仰ぎ見る人の心に寄り添う花はなく、桜の花に人の世のはかなさを感じることも、また慰めや希望を感じることもあります。
この春、満開の染井吉野の花を見て、2011年東日本大震災の後に、日本文学研究家のロバート・キャンベルさんが書かれた文章を思い出しました。
「私はこの桜をみたとき、東北でいまだ行方不明になっている方たち、避難所にいる方たち、残された子どもたちにどうしても想いがいきました。そして、この自分のなかにある悲しい感情が、吸収されていく感覚にとらわれたのです。文学の世界に描かれていたような、桜が人間の悲しみを吸収してくれる深みがあることを、初めて自分のなかで実感した瞬間でありました」(『VOICE』2011年6月号)
「桜が人間の悲しみを吸収」するとは、桜の花を見て愛でることが悲しみを緩和する作用がある、そのようにも捉えることができるでしょう。
さて、その桜。視覚的な癒しの効果以外にも、桜の花そのものが持つ成分のなかにさまざまな有効成分が含まれていることがわかってきました。
アロマテラピー研究者である川人紫さん(※)は、桜の有効成分に着目され、医療や美容のための実用化に取り組まれています。
川人さんが着目されたのが八重桜でした。川人さんは、八重桜が持つ成分のなかに人を癒す効能を追求。そして、低温真空抽出方法により、国産天然桜の芳香成分を含めた細胞水を抽出、実用化されたのです。
こちらの国産天然桜の細胞水は、実際に病気や怪我に伴う痛みを緩和するペインクリニックなど医療分野で使用されています(※)。
ちなみに桜からはエッセンシャルオイルの採取はできないと言われます。
市販の桜の香りの芳香商品はほとんどが合成香料でできているのでしょう。
そのため低温真空抽出方法により得られた桜の芳香成分を含めた細胞水の活用は、桜の天然成分が持つ癒しの可能性を広げる試みなのではないでしょうか。
この桜の細胞水。満開の桜の花の下に立った時に感じるような、ほんのりとした花の息吹を感じる自然な香りです。
見るだけでない、そのものが内に持つ成分も含めて、桜は人の心と体を癒すようです。
古来から桜と深く結ばれている日本人。
日本人が桜を愛するのも、無意識のうちにこの花の癒しの力を心と体で感じているからかもしれないと思っています。
※川人紫さん:
有名アロマテラピーブランドの代表をお勤め後、ご自身の病気をきっかけに植物が持つ癒しの力を追求し、医療分野でのアロマテラピーの活用に従事。
ヒーリングエッセンスのグリーフ リリーフアロマミスト和灯の香りをブレンドは川人紫さんです。
グリーフ リリーフアロマミスト和灯について↓
※桜の細胞水について、医療におけるアプローチについては、医療法人貝塚病院麻酔科 松下至誠医師の『「ごせん桜花セルエキストラクト」有用性と消費者からの6次産業の新しいアプローチへの提言』(aromatopia 139号 フレグランスジャーナル社)を参照してください。
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